自分ではどうにもならない
状況になってしまう
そんなときに
状況は変えられない
かもしれないけれど
心で感じることが変わると
起きていることの意味も変わる
そんなことも
あったりします。
歩けることの意味
私の父の晩年は
難病との闘いでした。
治療法のない病気でしたから
ゆっくりと悪化していくのを
ただ受け入れていくしか
ありませんでした。
陶芸が趣味でしたが
土をこねることができなくなって
趣味をカメラに変えました。
シャッターなら押せたのです。
そのうち
シャッターも押せなくなって
カメラのパンフレットを見る
だけになりました。
頭の中でたくさんの写真を
撮っていたのでしょう。
そのうち
会話もできなくなり
寝たきりになって
何かを楽しむことなど
想像もつかない状態になりました。
家での介護も大変でしたが
病院に入院してからも
寝返りさえうてなくなって
家族にとっては
その姿を見るのも辛いことでした。
病院への行き帰りの道には
杖をついて歩くおじいさんや
車椅子の少年がいたりして
病院に来ているわけですから
どの方も大変なことですし
どんなご苦労があるのか
伺ってみたわけではないのですが
私はそのとき
杖をついて歩いている方を見て
「外に出て、自分の力で
歩けるって素晴らしいことだな」
と、うらやましく思いました。
太陽をあびて
ゆっくり歩いているその方が
秋の日差しの中で
輝いて見えたのです。
父があんな風に歩けたら
どんなに良いだろう。
元気なときは
無口で厳格で近寄りがたく
とても怖い父だったのですが
怖かろうが
写真が撮れなかろうが
ただ歩けたら、それだけで
どんなに素晴らしいだろう
と思いました。
そのまま父は歩くことなく
亡くなってしまいましたが
杖をついて歩いていた
そのおじいさんの姿を
素晴らしいと思って見たその気持ちは
いつまでも心に残りました。
そうして、私の中で
外に出て歩けることの意味が
変わりました。
毎日、何気なく当たり前のように
どこかに出かけたり
普通に歩いたりしていること
これはすごいことなんだ
恵まれているんだと
感謝できるようになりました。
そしてそれは
父が教えてくれたことだと
思っているのです。
別れの意味
パートナーだった人と
お別れしてしまいました
というお話を伺うことがあります。
ずっと一緒だと思っていたのに
大好きだったのに
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
別れ話をされたら
頭の中が真っ白になるし
悲しみでいっぱいで
そのことしか考えられません。
周りの景色が灰色に見えて
何にも良いことなんか
ないように思えます。
自分の全存在を否定されたように
感じることもあるかもしれません。
しばらくはそんな状態が続いて
それは本当に苦しい日々なのですが
悲しみや
怒りや
それから寂しさも感じながら
一歩ずつ、一歩ずつ
前に進んで
あのショックが遠い日になったころ
そして灰色だった世界に
たくさんの色が戻ってきたころ
振り返ると
あの出会いと別れが
とても尊い思い出になっていることがあります。
別れなんて
嫌なことに決まっているけれど
あの日があったから
家族との絆ができたり
自分自身を大切にできるようになったり
人の気持ちがわかるようになったり
映画を見て深く理解できたり
そして新しい恋愛もできたり
そういうことなんだなあと
実感できる日は必ず来ます。
そうなると間違いなく
お別れに「ありがとう」と
思えるようになるのです。
悲しみの意味
よく「ありがとう」と
毎日100回言いましょうとか
そんなトレーニングもあったりしますが
無理にポジティブになっても
幸せは感じられないでしょう。
そこに本当の気持ちがなくては
意味がないです。
大事なのは
何をありがたいと感じるか
それは人それぞれ違っていいし
何が正しいなんていうこともなくて
まったく自由なのですが
起きた状況は
変えられないかもしれない。
でも、感謝できると
起きたことの意味が変わります。
悪いことから良いことへ
180度変わったりします。
自分は何に「ありがとう」と思えるのか？
それが多ければ多いほど
豊かな人生だと思いませんか？
まだ今は悲しみが残っていて
とてもじゃないけど
「ありがとう」なんて思えない
というのも全然OKです。
「そのうちありがとうと
思えたらいいのにな」
というだけでも
それは充分に素敵。
きっといつか悲しみの意味が
変わる日だって来るのです。
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