がんばりにもいろいろあるのですが
例えばスポーツ選手。
新記録を出すようなことに
挑戦しているとか
そういう特別な大事業のような
がんばることではなくて
日常的によくあることでも
ついがんばってしまう人がいます。
甘えたくても甘えられなくて
ひとりで奮闘してしまう。
そんな方はご自分のことを
損な性格だな
と思っていたりするものです。
向田邦子さんの『潰れた鶴』
私は向田邦子さんのエッセイが
大好きなのですが
その中でも
とても印象に残る作品のひとつに
『潰れた鶴』があります。
向田さんは幼いころから
きびきびと手早くて
気が利いていて
しっかり者の長女
と言われていました。
向田さんが小学校1年のときに
折り紙で鶴を折るという
授業がありました。
向田さんは
鶴の折り方を知っていたので
自分の鶴はさっさと折ってしまい
周りを見回すと
やり方がわからなくて
べそをかいている子たちがいました。
そこでちいさな向田さんは
あちこちに手伝いに回って
みんなの鶴を折ってあげました。
できた子は
並んで先生に見せに行きます。
向田さんが自分も並ぼうと思ったら
机にあった自分の鶴がありません。
あわてて探すと
それはいつの間にか床に落ちていて
誰かに踏まれて潰れていました。
潰れた鶴には
うわばきの跡がついていて
ふくらましても元には戻らない。
できていたにも関わらず
人の面倒を見ていて
自分がやり直しになり
「もう間に合わない!」
と泣くのをこらえて折り直した
というお話。
そのエッセイには他にも
宴会の後に
みんなのタクシーを呼んであげて
気が付いたら
自分のタクシーはなくて
雨に濡れながら電車で帰った
というお話もありました。
向田さんは自嘲気味に
得意になって人の世話をやき
気がつくと
自分1人が取り残されている。
と書いています。
そのエッセイを読んで
「ああ~、わかる!」
と思う方は
意外と多いのではないでしょうか。
私もそうでした。
しっかりしているね
私もちいさいころ
「しっかりしているね」
と大人に言われることが多い子でした。
両親が共働きだったので
母が帰ってきたら
すぐに料理ができるように
買い物をしておくのは
小学生の時から私の仕事でした。
学校から帰ると
自分で鍵を開けて家に入り
メモと買い物かごと千円札を持って
そのころはスーパーではなくて
小さな市場に毎日行きます。
お肉屋さんのおじさんや
八百屋さんのおばさんは
みんな私の顔を憶えていてくれて
「小さいのにしっかりしてるねえ。」
と行くたびに褒めてくれて
なんだか誇らしく思っていました。
「もっとしっかりしなくちゃ」
そんなことも思っていました。
私が結婚して
その町を出ることになったとき
八百屋のおばさんに挨拶に行ったら
「お母さんもいないのに
ほんとに立派に育ったわねえ。」
と涙ぐまれて
いやいや、お母さんいますと言ったら、
びっくりされたことがありました。
でもその後の人生で
お母さんになりたかったのに
なれなかったり
離婚したり
毎日夜中まで仕事をして
鬱になったり
大事にしてくれない人とつきあったり
そのたびに
歯を食いしばって
「どうやったらこれを1人でやれるか?」
と奮闘するよりも
「できないよ~」と言って
べそをかいて助けてもらったり
手伝ってもらったり
そんな女の子だったら
もっと幸せになれたんじゃないか
何度そんな風に思ったことでしょう。
甘えられない女の子たちに捧ぐ
でも今、
私は自分のことを
全然しっかりしてないな!
と思うのです。
天気予報も見ないで
洗濯物を干してでかけて
見事に雨に濡らしたり
お酒を飲んで電車で帰って
はるか遠くの駅で目が覚めたり
友達の誕生日を携帯にメモしたのに
なぜか彼女の誕生日が
年に3回もあったり
しっかりしていないけど楽です。
そしてそれでもなんとか
暮らしていけています。
甘えているつもりはないけど
「大丈夫?」と言って
人が助けてくれる
ということもあります。
失敗しても
笑って許してもらうこともあります。
ほんとは昔から
結構こんな人間だったのかもしれません。
でも、ここに来るまでは
実はたくさん練習しました。
しっかりしなくちゃ!が
行き過ぎてしまい
あまりに辛くて寂しくて
自分を変えたいと思ったのです。
それも50歳過ぎてから。
できますよ。
いくつからでも。
練習の方法は
いろいろあるのですが
基本は
自分の中にずっといる
しっかり者の小さな女の子を
優しくいたわってあげること。
身体と同じくらい
大きな買い物かごを下げて
じゃがいもや牛乳で重くて
歯を食いしばって
引きずりそうに歩いている子
あの子はまだずっと
心の中にいるのです。
その子のちいさな身体を
心の中で抱きしめて
「よくがんばったね。
もうがんばらなくていいよ。」
「しっかりしてなくても
もう大丈夫だよ。」
と声をかけてあげること。
ひとりでもできるかもしれないけど
ここで自分1人でがんばらず
カウンセラーに手伝ってもらう
というのも練習のうちです。
そうやってだんだん
ガチガチに張りつめている
しっかり具合を緩めていくのです。
でもね。
向田邦子さんが甘えん坊だったら
あの名作は生まれていなかった。
そして私は
向田さんのことを
大好きじゃなかったかもしれません。
潰れた折り鶴を
涙をこらえて折り直している
ちいさな邦子ちゃんがいたら
その子も抱きしめてあげたい
そう思いませんか?
※「甘えたい」についての記事はこちらにも
→「甘えたい気持ちをどうするの?」
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